合唱曲「手紙」の歌詞の意味を深く考察!〜大人の「僕」にしかできない励まし方とは?〜
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こんにちは!
合唱コンクールや卒業式で「手紙 ~拝啓 十五の君へ~ 」を歌うことになった生徒さんや、それを指導する先生方。
そんな風に感じていませんか?
私は中学校の国語科教員として、合唱コンクールでその年に歌う曲の歌詞について、授業の中で生徒と一緒に考えてきました。
なんとなくのイメージで歌うのと、歌や作詞者の背景を知ったり、一つ一つの言葉の深い意味を検討したりした後に歌うのとでは、気持ちの込め方も全く違うものになります。
ぜひ、「手紙 ~拝啓 十五の君へ~ 」の歌詞に込められた深い意味を知って、想いのこもった歌声を響かせましょう!
基本情報と歌詞のポイント
合唱曲「手紙~拝啓 十五の君へ~」(以下『手紙』と省略します。)は中学校の合唱コンクールや卒業式でも歌われることが多い人気の曲です。十五歳の「僕」と大人になった「僕」自身とのやりとりを歌っています。
歌手のアンジェラ・アキさんが2008年の「NHK全国学校音楽コンクール」中学校の部の課題曲として作りました。
アンジェラ・アキさんと、この曲を合唱コンクールで歌う中学生達との交流を描いたドキュメンタリーがNHKで放送され、この歌に込めた想いなどがアンジェラ・アキさんご本人の口から語られました。
それらの内容は以下の書籍にもなっています。
また、この曲はそのメッセージ性の強さから様々なCMや映画でも使われています。
詳しくは
にまとめられているので、省略しますが、歌のイメージを考えるためには、それらの作品も見てみると参考になるかもしれませんね。
それでは、
■この詩の主題とは?
■どのように気持ちを込めて歌えば良いのか?
について、それぞれ見ていきましょう。
※アンジェラ・アキさん自身用に編曲し直した曲もあります。
目次
歌詞に沿ってストーリーをチェック!
『手紙』誕生のきっかけになったエピソード
『手紙』には、その誕生のきっかけとなったエピソードがあります。
詳しくは
アンジェラ・アキさん(シンガーソングライター): 子どもたちへ : 子ども応援便り
というページが分かりやすいです。ここでは短くまとめます。
「NHK全国学校音楽コンクール」のために作曲を依頼されていて、悩んでいたアンジェラ・アキさんの元に一通の手紙が届きます。
それはアンジェラ・アキさん自身が17歳でアメリカの高校にいた頃、親にも友達にも相談できないことを、30歳の自分に向けて書いたものでした。
アンジェラ・アキさんは日本人の父とイタリア系アメリカ人の母との間に生まれ、徳島県で育ち、岡山の中学校から、アメリカの高校へと暮らす場所も様々に変わっていきました。
外国人を見たことがない人も多かった地方での幼少期や、見た目は外国人なのに英語がほとんど話せない高校時代を過ごしたアンジェラ・アキさんは、人一倍「自分は何者なのか」という悩みを抱えていたそうです。
ですが、17歳からの自分の手紙を読んだ30歳の頃のアンジェラ・アキさんは「なんでこんなことで悩んでいるの?」と切なく思い、当時の自分に今なら何を言ってあげられるだろうかと考えて書いたのが『手紙』の歌詞だそうです。
このエピソードを聴くと、それぞれの歌詞の表していることが深く分かる気がします。
それでは具体的なストーリーを見ていきましょう。
1番 15歳の「僕」から未来の自分への手紙
15歳の「僕」は家族にも友達にも悩みを相談することができず、「未来」の自分に助けを求めて、自分の気持ちを吐き出します。
15歳の「僕」の悩みとは何なのでしょうか?
アンジェラ・アキさんのエピソードや、2番の
という歌詞からは「自分とは何者なのか」「なんのために生きているのか」といったアイデンティティに関わる悩みが浮かんできます。
ですが、ここでそれを明確にしていないのは、その他の様々な中学生の悩みに寄り添えるような歌にするためだと思います。
15歳、中学3年生の悩みにはどんなものがあるのでしょうか?
ここには書き切れないくらい、人それぞれに内に秘めた悩みがあります。
もしかするとそれらは周りの人から見れば「大したことない」ものもあるかもしれません。
しかし、だからこそ誰にも分かってもらえない、その苦しみは大きくなっていきます・・・。
誰の言葉を信じ歩けばいいの?
ひとつしかないこの胸が何度もばらばらに割れて
苦しい中で今を生きている
誰にも相談できない「僕」は本やインターネットなどの中に答えを求めたのかもしれません。
もしくは相談という形ではなく、友達や家族の考えを探ってみたりもしたのでしょう。
ですが、人生の多くには「絶対にこれが正しい」という答えなどは無く、人それぞれに「答え」は違っているものです。
・どれも正しく思えてくるし、どれも間違っているように思えてくる。
・今まで絶対に正しいと信じていたものが「そうではないかも」と思えてくる。
・憧れていた人の中にも、肯定できない面があると気づいてくる
思春期の15歳頃に、このような、世の中の両面性に悩む人はたくさんいます。
周りの人も、そして自分自身すら信じられない「孤独」こそが最もつらい悩みかもしれません。
そんな中での「今を生きている」という言葉には、明日のことすら見えない絶望の中で、必死に「今」だけを生き抜いている「僕」のつらさが感じられます。
自分自身に言い聞かせるように、励ますように、一日一日を生きていく足取りの重たさが読み取れます。
2番 未来の「僕」だけができる励まし方 ~生き抜くこと~
明日の岸辺へと 夢の舟よ進め
15歳の「僕」の苦しみを唯一知っている大人の「僕」はどんなアドバイスをするのでしょうか?
大人になって様々な困難を乗り越えた「僕」なら特効薬になりそうなアドバイスが描かれそうですが、歌詞の中ではそのような表現は出てきません。
歌われているのは、ただひたすらに「僕」を励ます言葉だけです。
上に挙げた歌詞は「夢の舟よ進め」という表現が「明るい未来」をイメージさせますが、その前の歌詞は「荒れた青春の海」で「明日」を目指すという「沈まないようにギリギリで今を生き抜いていく」言葉です。
苦くて甘い 今を生きている
信じ続けること 生き続けること
この歌詞について、先ほど紹介した
アンジェラ・アキさん(シンガーソングライター): 子どもたちへ : 子ども応援便り
のインタビューの中にあるアンジェラ・アキさんの言葉を紹介します。
私は18歳で歌手になることを決めてから、10年間デビューできませんでした。よく、「10年もあきらめずに、すごいね」と言われますが、何度も挫折して、音楽自体を投げ出したこともありました。
途中でbelieveできなくなっても、時間がたってまたできるようになったら、それは続いているということ。そんな考えが、私にとっての支えでした。
もしすぐにデビューできたら、この「Keep on believing」という言葉にたどりつくことはなかったかもしれません。
“ ing”をつけたのには、たどりついてもその先があるし、たどりつけなくても終わりじゃない、”~し続ける”ことが大切、という想いをこめています。
大人の「僕」もまだ長い旅の途中で、15歳の「僕」の「今」もちゃんとその道に繋がっています。
その道が「正解」なのかは、大人の「僕」にも結局分かりません。
むしろ
■みんなや自分の憧れている人は「正解」を知っているのに、自分は知らない。
■自分のこの生き方は「正解」なのだろうか?
そう思ってしまうことこそが悩みの種なのかもしれません。
恐らく、どんなに幸せそうに見えている人生でも、何らかの「悲しみは避けては通れない」でしょう。
そんな中でできるアドバイスは「笑顔を見せて 今を生きていこう」という事だけなのかもしれません。
「笑顔で」ではなく「笑顔を見せて」という所に「苦しみや悲しみがあっても負けないで」というニュアンスを感じますね。
この歌詞の主題を表すなら、
「苦しい中でも 悲しい中でも 笑顔を見せて 今を生きていこう」
となるでしょうか。
歌い方も
「未来は明るいよ!楽しいよ!」という楽観的な気持ちではなく、
未来の「僕」も君と同じだよ。
と寄り添いながら、
君の一歩一歩は、ちゃんと未来に繋がっているよ。
と優しく勇気づけるように歌うと良いと思います。
誰に向けての言葉か?
幸せな事を願います
最後のこの言葉には
■大人の「僕」→15歳の「僕」
■この歌を聴いている人たちに向けて
という3つのメッセージが込められているように思います。
歌うときにはそれぞれのパートごとに「誰から誰へ」か、分担を決めて、心を込めても良いかもしれません。
授業での主な発問
①「誰にも話せない 悩みの種」とは何か?
一番考えたいのは「十五の僕」の「誰にも話せない 悩みの種」です。アンジェラ・アキさんのエピソードを踏まえた解釈と、それぞれ自分自身に引きつけた解釈のどちらも自由に考えられると良いでしょう。
アンジェラ・アキさん自身がNHKのドキュメンタリーの中で、中学生に「未来の自分」へ手紙を書く活動を提案しています。
そういった活動の中で、15の「僕」の悩みが自分の事として捉えられるかもしれません。
②大人の「僕」はなぜ具体的なアドバイスをしないのか?自分なら何と言うか?
前述した「2番 未来の「僕」だけができる励まし方 ~生き抜くこと~」の内容について考えさせる発問です。15の「僕」と切り離された存在からの言葉では意味がないことに気づくと思います。
③「笑顔で」と「笑顔を見せて」はどう違うか?
これは国語で扱う場合には考えておきたいところです。
④最後の「あなた」は誰を指しているか?
「十五の僕」「大人の僕」「聴いている人」それぞれ出ると思います。
最後に
■音楽の授業は時数が少ないので、歌詞の意味までじっくりと扱うのは難しいと思いますが、歌詞を配って、アンジェラ・アキさんのエピソードだけでも紹介してみてください。歌声も変わると思います。※このページをそのままコピーして配布していただいても構いません。
「国語」の授業でも扱ってみると、「実際に歌う」という明確な目標がある分、教科書の学習以上に盛り上がりますよ。
■私は文学の研究はしていますが、音楽に関しては素人です。これからも様々な合唱曲の歌詞について考察していきたいと思っていますので、
・音楽上の解釈でも論の補強になる
・次はこの曲を扱って欲しい
などありましたら、コメントいただければ幸いです。
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※音楽や国語の授業、または合唱部や合唱コンクールでメンバーに投げかける場合の基本的な流れなどもこちらに書いていますので、ご覧いただければ幸いです。